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災害救助犬の(基礎)トレーニングを考える

改めて災害救助犬の基礎トレーニングを考えてみます。
どんな順番で何を教えて行ったらよいのか。

1.ホエロ
いわゆるバークアラート、吠えて知らせるための基礎としてキューで吠えられるように練習します。

2.バークアラート
キューの置き換えという手段で遭難者を発見したら吠えるようにします。
ここで大事なのは、遭難者をそれ以外の人と弁別する条件をちゃんと考えることです。人がうずくまっている、もしくは横になっていることを弁別の条件にできるのが一番良いと思います。隠れているかどうかは条件に入れない方が現実的でしょう。
この段階では、鼻を使って探させるようなことはせず、犬の目の前で遭難者役がしゃがみ込み、吠えさせて報酬を出すことに専念します。
本来の捜索練習とは完全に切り離して考えるべきでしょう。

バークアラートに対する報酬はハンドラーよりも遭難者役のヘルパーさんに出してもらう方が良いと思います。テンションが高く勢いで捜索するタイプの犬ならおもちゃや遊びを報酬にします。それほどテンションが高くない、あるいはすごくフードドライブな犬には食べものがいいでしょう。


3.捜索の基礎
バークアラートができるようになってから、捜索の練習に入ります。初期段階では、距離も環境の難しさもミニマムにして、遭難者を探すというルールを覚えてもらうことに専念します。
犬にもよりますが、まずヘルパーが3m程度離れた遮蔽物に隠れ、それを探すことから始めます。
その際にランナウェイといって犬に見えるように遠ざかり、隠れるという手法が一般的ですが、これは目で探しているにすぎない、いわゆるプロンプトなので、本来の鼻を使って探す行動に切り替えるには、ランナウェイを2~3回にとどめた方が学習効率が良いと思います。
部屋の中など、余分な情報がないところに2つの箱を置き、そのどちらに入っているかを鼻を使って探させるような方法が好ましいでしょう。
2者択一だし距離は短いし屋外のような余分な刺激もないところで、とにかく鼻で探すという習慣を付けるためです。


4.環境の変化
屋外、がれき、ブッシュ、廃屋など様々な環境で捜索の練習をするには、まずそういった環境に慣らしておくことが大切です。経験のないシチュエーションでは場に慣れるだけで大変ですから、捜索まで犬の意識が回らなくなる恐れがあり、これは捜索をしてもしなくても良いという学習につながってしまう懸念があるからです。まずはリード付きで、もしくはオフリードで自由に犬に探索をさせるようにしましょう。

5.距離の変化
一般的な家庭犬には飼い主から離れても平気な距離感というのが個々に存在します。災害救助犬の捜索では日常の距離感を超えた距離での捜索が求められますから、距離を離れても平気だという慣らしが必要になります。
これは、たとえばハンドラーからは離れるが、遠くのヘルパーが遊んでくれる、あるいはおやつをくれるといった練習が効果的でしょう。この練習でもまだ捜索と混ぜることはしません。

6.捜索のバリエーション
様々なシチュエーションでの捜索を行います。ここで大事なのは距離を延ばさないこと。失敗するリスクを避け、環境の般化に集中します。

7.ロングディスタンスの捜索
距離のある、ハンドラーから見えなくなるような場所での捜索練習です。この段階では屋外でも最も安心できるシチュエーションで行うことが望まれます。距離を伸ばす時は環境や発見の難易度を高めないことが大切です。

8.さまざまな環境でのロングディスタンス
ここでシチュエーションを変えながらの長い距離の捜索を行います。それでも風向きなどの難易度は低く抑えるべきでしょう。

9.発見の難易度を高める
今度は風向きや遭難者役の隠れ方による、発見の難易度を高める練習をします。この場合、距離は短く、そしてシチュエーションも安心できるような場所を選びましょう。
ただ探すことだけが難しい隠れ方、風向きを練習します。

10.総合練習
すべての練習をしっかり終えてから、応用的にすべての条件を様々に組み合わせた練習を行いましょう。
ただ、ここではまだ複数解答やゼロ解答はやらないようにします。

11.複数解答とゼロ解答
遭難者役が複数いる設定での練習、および一人もいない設定の練習を行います。
この練習をするときは距離や環境の難易度は下げておきます。ゼロ解答の練習をする場合には報酬に特に注意します。生存者発見よりも喜ばしい報酬が出てはならず、でもゼロ解答を学習し伝えることができる程度には報酬が必要だからです。どのくらいの範囲でどのくらいの時間捜索し続けるか、きっと高度なバランス感覚がハンドラーにも犬にも求められるのだと思います。

12.死体捜索の練習
生存者の捜索練習は、実働の頻度があまり高くないことを考えると、最後まで報酬をヘルパーが出す練習のまま行っても構わないと思います。ただその場合、遺体捜索に関しては捜索する臭いが異なること、そして遺体が報酬を出すことが有り得ないことを考え、生存者の捜索とはまったく異なる練習とルールを作る必要があると思います。
しかし、これはエアセント(浮遊臭をとる)による臭気選別ですので、シグマシュート(合成臭)などを用いて普通に臭気選別の練習から始められると思います。
この場合報酬を出すのはハンドラーなのでクリッカーを用いることで効率を上げることができると思います。
ただ見つけたらバークアラートという条件付けは必須ですので、「ホエロ」の声からキューの置き換えによって教えて行きます。
もしかしたら生存者捜索と遺体捜索の場合のキューを変えておいた方が良いかもしれませんが、同じキューで捜索させるなら、生存者捜索にプライオリティーを置くための練習が必要になります。

13.生存者捜索にプライオリティーを置く練習
ここまでの練習ができたら、遭難者役とシグマシュートを同間隔で並べ、捜索のキューで犬を出します。そこで生存者発見を優先したら報酬を出し、そうでなかったら出さないという弁別の練習を行います。
環境の条件付けとして、生存者がいない場合のみシグマシュートの発見で報酬が出るという練習です。


以上とりあえず思いついたことを書いてみました。

ポイントは「4つのD」と呼ばれているトレーニングの原則、つまり距離と時間と環境と報酬(のレベルや引き上げ)を同時に難しくして行かないこと。練習するときにはひとつずつ難易度を上げて行くようにするという点に有ると思います。

今後徐々に実用的なトレーニングマニュアルにしていけるように考えて行きたいと思います。

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のいぱぱ

Author:のいぱぱ
やっぱりサモエドが大好きです。
抜け毛がものすごくても、頑固でマイペースでも・・・。
運命の出会いで一緒に暮らすことになったルフトと、最新の科学的な理論をバックボーンに信頼関係を楽しく築いて行きたいと思います。

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